「人の性格は遺伝だけでなく、社会の雰囲気によっても形づくられる」
そんな事実を明らかにした最新研究が、デンマーク・コペンハーゲン大学(University of Copenhagen)によって発表されました。
研究チームが世界183カ国と米国50州、合計190万人以上を対象にした分析の結果、腐敗や貧困、暴力が蔓延する社会では、人々が「暗黒の性格特性」を身につけやすいことが明らかになったのです。
研究の詳細は2025年4月11日付で学術誌『PNAS』に掲載されています。
目次
- 性格の暗黒特性とは何か?
- 社会環境と「暗黒性」の関係
性格の暗黒特性とは何か?

心理学の世界には、人間の「負の側面」を捉えるための概念があります。
それが「暗黒パーソナリティ特性」です。
たとえば、冷酷さを特徴とするサイコパシー、人を操ろうとするマキャベリズム、自分本位なナルシシズム、他人を傷つけて楽しむサディズムなどがこれに含まれます。
一見バラバラに見えるこれらの性格特性には、共通する根っこがあると考えられています。
それが「暗黒因子(Dark Factor of Personality)」と呼ばれるものです。
これは「自分の利益を最優先にし、他人を犠牲にしても構わない」という心の傾向を指します。
さらに、このような行動を正当化する信念─「人はみんな自分勝手だから仕方ない」「弱い方が悪い」─を伴うことも特徴です。
つまり暗黒因子は、人間の「身勝手さの核心」といえるものです。
実際にこのスコアが高い人ほど、不正や搾取、嘘や報復といった行動をとりやすいことが研究で示されています。
では、この暗黒因子はどのように育まれるのでしょうか?
遺伝要因の影響はもちろんありますが、今回の研究は「社会環境」が大きな役割を果たしていることを突き止めました。
社会環境と「暗黒性」の関係
研究チームは今回、世界規模のデータを使って「社会環境」と「性格の暗黒因子」の関連を検証しました。
彼らが注目したのは「逆境的社会条件(Aversive Societal Conditions, ASC)」と呼ばれるものです。
具体的には次の4つの指標で構成されています。
1.腐敗(不正が横行しているかどうか)
2.経済的不平等(貧富の差が大きいかどうか)
3.貧困(生活に困窮する人が多いかどうか)
4.暴力(殺人などの暴力事件がどの程度発生しているか)
チームは2000〜2004年の各国・各州のデータからASC指標を作成し、その約20年後に収集された性格調査データと照らし合わせました。
つまり、人格形成期にどのような社会に暮らしていたかが、後の性格傾向に影響しているかどうかを調べたのです。
結果は驚くべきものでした。
腐敗や暴力の多い国や州ほど、住民の平均的な暗黒特性を示すスコアが高かったのです。
効果の大きさ自体はそこまで大きくはないものの、国際的にも米国内でも一貫した傾向が見られました。
たとえば米国では、ネバダ州やルイジアナ州、ニューヨーク州などが高いスコアを示し、バーモント州やユタ州、オレゴン州などは低いスコアを示しました。
これらの違いは、20年前の社会環境─暴力事件の多さや貧困率の高さなど─と対応していました。
研究者たちは、この関連の理由を次のように説明しています。
腐敗や暴力が蔓延する社会では、「他人は信用できない」「ずるをした方が得をする」といった信念が広がりやすくなります。
そして繰り返しそうした環境にさらされることで、自己中心的な行動が「当たり前」だと学習し、それがやがて性格の一部として定着していくというのです。

今回の研究は、人格形成における「社会の影響力」を改めて浮き彫りにしました。
暗黒パーソナリティは生まれつきだけでなく、社会の不正や不平等の中で強化されていくのです。
つまり、社会環境を改善することは、単に生活を豊かにするだけでなく、将来世代の「性格」そのものをより健全にする可能性を秘めています。
逆に言えば、腐敗や暴力を放置する社会は、次世代により多くの「暗黒因子」を抱えさせることになるのかもしれません。
私たちの人格は、私たちが生きる社会そのものの鏡でもあるのです。
参考文献
Dark personality traits flourish in these specific environments, huge new study reveals
https://www.psypost.org/dark-personality-traits-flourish-in-these-specific-environments-huge-new-study-reveals/
元論文
Aversive societal conditions explain differences in “dark” personality across countries and US states
https://doi.org/10.1073/pnas.2500830122
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部