ジャイアントパンダは肉食目に属しているにもかかわらず、食事のほとんどが竹で構成されています。
しかし彼らが「肉を食べず竹ばかりを好む」根本的な理由は明らかになっていませんでした。
中国の西華師範大学(CWNU)は、最新の研究によって、竹由来のマイクロRNA(miRNA)が、パンダの竹への食欲や消化能力を調整している可能性を指摘しました。
「竹」が、パンダを竹好きにさせていたのです。
研究の詳細は、2025年2月28日付の『Frontiers in Veterinary Science』で発表されまし
目次
- 肉食動物なのに草食?パンダはなぜ竹好きなのか?
- 竹由来のmiRNAがパンダの遺伝子発現を調節し、パンダを竹好きにしていた
肉食動物なのに草食?パンダはなぜ竹好きなのか?
通常、肉食目に分類される動物は短い腸と強力な消化液を持ち、効率的に動物性タンパク質を分解します。
しかし、パンダの消化器官はライオンやトラと似ているにもかかわらず、主食は竹です。
この矛盾については、これまで味覚の変化や腸内細菌の適応、代謝の特殊化などが指摘されてきました。
例えば、パンダはうま味受容体(TAS1R1)が機能しないため、肉のうま味を感じにくいことが分かっています。
また、竹を消化するためのセルラーゼ(植物繊維を分解する酵素)を自身では作れず、腸内細菌に依存していることも知られています。

ではなぜ、パンダは好んで竹を食べるのでしょうか。
研究チームは今回、miRNA(マイクロRNA)に着目し、その原因を探ることにしました。
miRNAは、遺伝子の発現を制御する重要な役割を果たしています。
通常、mRNA(メッセンジャーRNA)に結合し、その翻訳を抑制することで、特定のタンパク質の生成を調整します。
近年の研究では、植物由来のmiRNAが動物の体内に取り込まれ、遺伝子の制御に影響を与える可能性があることが明らかになっています。
今回の研究では、中国の保護施設で飼育されている7頭のジャイアントパンダ(生体のメス3頭、成体のオス3頭、若いメス1頭)から血液を採取し、そこに含まれるmiRNAの種類と量を特定しました。
また、パンダが摂取する竹の異なる部位(葉、茎、若芽)からもRNAを抽出し、それらのmiRNAプロファイルを比較しました。
そして竹由来のmiRNAがパンダの遺伝子発現にどのように影響を与えるのかを予測しました。
竹由来のmiRNAがパンダの遺伝子発現を調節し、パンダを竹好きにしていた
研究チームは、パンダの血液から57種類の竹由来miRNAを特定しました。
これらのmiRNAは、主に味覚、消化、食欲に関わる遺伝子の発現を調整していることが明らかになりました。
味覚に関しては、miRNAが味覚伝達経路に作用し、肉ではなく竹を好むようになったと考えられます。

消化に関しては、竹由来のmiRNAが腸内細菌の遺伝子発現を変化させ、竹の消化を助ける微生物を増やす働きが確認されました。
さらに消化酵素の分泌を最適化し、竹の栄養吸収を向上させる可能性が示されました。
食欲に関しては、竹由来のmiRNAがドーパミン代謝を調整し、パンダが竹を食べると快楽を感じるように働いている可能性があります。
これは、パンダが竹を選択的に食べる理由の一つと考えられます。
この研究は、パンダの食性が単なる遺伝的要因だけでなく、竹そのものがパンダの遺伝子発現に作用し、竹を好むように仕向けている可能性を示唆しています。
つまり、パンダは生まれつき竹を好むのではなく、竹を食べることで竹由来のmiRNAが体内に取り込まれ、竹を好むようになったと考えられるのです。
これらの結果は、食事が動物の生理を変える可能性を示しており、人間の食生活や健康管理にも新たな視点をもたらす重要な発見です。
参考文献
Pandas “tricked” into becoming the world’s biggest bamboo fans
https://newatlas.com/biology/pandas-bamboo-micro-rna/
Why don’t pandas eat more meat? Molecules found in bamboo may be behind their plant-based diet
https://phys.org/news/2025-02-dont-pandas-meat-molecules-bamboo.html?deviceType=desktop
元論文
Cross-kingdom regulation of gene expression in giant pandas via plant-derived miRNA
https://doi.org/10.3389/fvets.2025.1509698
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部