インドの人々の生活や農業、宗教にとって「命の川」と呼ばれるガンジス川。
そのガンジス川が、今まさに過去1300年の中でで最悪の「干ばつ」に直面していることが、最新の国際共同研究で明らかになりました。
驚くべきことに、この異常な水量の減少は自然の気候変動では説明できず、人間の活動による影響が大きいことが突き止められています。
研究の詳細は2025年9月22日付で科学雑誌『PNAS』に掲載されています。
目次
- ガンジス川に何が起きているのか?
- なぜこれほどまでに干上がったのか? 影響はどこまで広がるのか?
ガンジス川に何が起きているのか?
ガンジス川は、ヒマラヤからベンガル湾に向かって流れる全長2500km以上の大河で、インドやバングラデシュの約6億人が日々の水や農業、工業利用に頼っています。
しかし近年、このガンジス川の水量が「かつてないほど急速に減少している」という衝撃的な事実が、インド工科大学ガンディナガル校(IITGN)と米アリゾナ大学(The University of Arizona)の共同研究によって明らかになりました。
研究チームは、過去1300年にわたるガンジス川の水量の変動を再現するため、「樹木年輪」のデータや歴史記録、さらに最新の水文学モデルを組み合わせるという方法を取りました。
この手法によって、700年から2012年までの流量を高精度で再現し、さらに過去に記録された干ばつや飢饉の年と照合して信頼性も検証しました。
その結果、1991年から2020年にかけてのガンジス川の流量の減少(=干ばつの深刻さ)は、16世紀に起きたこれまでで最も最悪とされていた干ばつよりも「76%も深刻」であることが分かりました。
しかも単に一時的な現象ではなく、干ばつが起きる頻度も増え、持続期間も長くなっているのです。
なぜこれほどまでに干上がったのか? 影響はどこまで広がるのか?
今回の研究が特に注目された理由は、「なぜここまで急激に干上がってしまったのか」という問いへの答えです。
ガンジス川の流量は、もともと「モンスーン」と呼ばれる夏の雨季に大きく左右されます。
しかし近年は、この夏のモンスーンが大きく弱まり、その影響で川の水量が激減していることが判明しました。
研究者たちは、モンスーンの弱体化の背後に「人間活動がもたらすインド洋の温暖化」や「工場や車、発電所などから排出されるエアロゾル(微粒子)」といった要素が深く関与していると分析しています。
これらの微粒子は雨を抑制し、結果的にガンジス川の水量減少を加速させているのです。
さらに驚くべきことに、世界で使われている多くの気候モデルは、このような深刻な干上がりを正確に予測できていませんでした。
つまり「これまでの常識」や「過去の気候変動の枠組み」では説明できない、まったく新しいレベルの危機がガンジス川を襲っているのです。
このままガンジス川の干上がりが続けば、飲み水の供給や農業生産、工業活動だけでなく、野生動物や生態系にも甚大な影響が及ぶことが懸念されます。
参考文献
The Ganges River is drying at an unprecedented rate, new study finds
https://phys.org/news/2025-09-ganges-river-drying-unprecedented.html
元論文
Recent drying of the Ganga River is unprecedented in the last 1,300 years
https://doi.org/10.1073/pnas.2424613122
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部