BMI(体格指数)は、肥満や心臓病のリスクをはかる指標として、世界中で広く用いられています。
健康診断やテレビの健康特集などでも、「あなたのBMIはいくつですか」と尋ねられることが当たり前になっています。
しかし、この常識を覆す研究成果が発表されました。
アメリカのピッツバーグ大学医療センター(UPMC)の研究チームは、「ウエスト・身長比(waist-to-height ratio, WHtR)」というシンプルな指標が、BMIよりも正確に冠動脈石灰化(心臓病リスクの初期サイン)の発生リスクを予測できることを明らかにしたのです。
この研究は2025年10月31日付の医学誌『The Lancet Regional Health – Americas』に掲載されました。
目次
- 「BMI」と「ウエスト・身長比(WHtR)」
- ウエスト・身長比はBMIよりも心臓病リスクの予測に役立つ
「BMI」と「ウエスト・身長比(WHtR)」
私たちの健康を簡単に評価する際に、よく使われてきた指標がBMIです。
BMIは「体重(kg)÷身長(m)²」で計算され、WHOの基準では、BMI25以上で「肥満傾向」、30以上で「肥満」と判定されます。
ところが、BMIには大きな弱点があります。
それは、その人の「体脂肪の分布」や「筋肉量」をまったく反映しないことです。
たとえば、筋肉質なスポーツ選手でも“肥満”と判定されることがあり、逆にスリムに見えてもお腹だけぽっこりした“内臓脂肪型肥満”は見逃されやすくなっています。
こうした課題から注目されているのが、「ウエスト・身長比(WHtR)」という新しい指標です。
ウエスト・身長比とは、ウエスト周囲径(cm)を身長(cm)で割るだけの、とてもシンプルな計算方法です。
たとえば身長が160cmでウエストが80cmの人は、WHtRが0.5となります。
この「0.5」という数値は、肥満や心血管リスクの目安として広く用いられている基準です。
WHtRの最大の強みは、性別や年齢、体格の差を気にせず、誰でも自宅で簡単に測れるという点にあります。
また、筋肉質な人や高齢者、子どもでも、体格差を問わず一律の基準で評価できるため、実用性の高い「新しい健康のものさし」として国際的にも注目されています。
今回の研究では、ブラジルの大規模コホート「ELSA-Brasil」に登録された2,721人の成人を対象に、5年以上にわたる追跡調査が実施されました。
参加者はいずれも、研究開始時点で心臓血管疾患の兆候がなく、冠動脈石灰化スコアがゼロという条件を満たしています。
そして研究チームは、各参加者のBMI、ウエスト周囲径、WHtRを測定し、5年後に心臓のCT検査を用いて「冠動脈石灰化(動脈硬化の初期サイン)」を再評価しました。
その間、新たに冠動脈石灰化が発生したかどうかを記録し、どの指標が将来のリスクを最もよく予測できたかを詳細に比較します。
さらに、年齢や性別、喫煙歴、運動習慣、血圧、コレステロール、糖尿病といったあらゆる伝統的なリスク要因を統計的に調整し、「BMI」「ウエスト周囲径」「WHtR」の“本当のリスク予測力”を検証しました。
ウエスト・身長比はBMIよりも心臓病リスクの予測に役立つ
研究開始から5年以上が経過した時点で、参加者の約15%に新たな冠動脈石灰化が見つかりました。
最初に単純な関連を見ると、BMIもウエスト周囲径もWHtRも、いずれもリスク上昇と関係しているように見えました。
しかし、年齢や生活習慣などの伝統的なリスク要因をすべて調整した解析では、WHtRだけが唯一、将来の冠動脈石灰化リスクの「独立した予測因子」として残りました。
とくに注目すべきなのは、このWHtRの予測力が、BMIが30未満の人々で最も強く現れたことです。
これまで「BMIが正常~やや高め」なら健康だと安心されていた層でも、WHtRが高いと将来の冠動脈石灰化リスクが見逃せないことが明らかになったのです。
研究者は、「BMIやウエストサイズなどいろいろ調整したが、最終的に冠動脈石灰化リスクを予測できたのはWHtRだけだった」と語っています。
また、別の研究者も次のように語りました。
「たとえ体重やコレステロール、血圧が正常でも、WHtRが高ければ冠動脈石灰化リスクを早期発見できます。
これは誰もがすぐ使えるシンプルかつ強力なツールです」
この成果は、「BMIが正常だから健康」という従来の安心感に疑問符を投げかけています。
隠れたリスクを見逃さない「ウエスト・身長比」の普及は、心臓病の早期発見と予防につながる大きな一歩となるでしょう。
今後、ガイドラインや健診でWHtRがより重視される可能性があります。
あなたの健康は問題ないでしょうか。
ウエスト・身長比を測り、“隠れたサイン”を見逃さない健康管理が大切です。
参考文献
Doctors Say This One Simple Body Measurement Beats BMI at Predicting Heart Disease
https://www.zmescience.com/medicine/waist-to-height-ratio-better-than-bmi/
Waist-to-height ratio outperforms BMI in predicting heart disease risk
https://medicalxpress.com/news/2025-11-waist-height-ratio-outperforms-bmi.html
元論文
Waist-to-height ratio and coronary artery calcium incidence: the Brazilian Longitudinal Study of Adult Health (ELSA-Brasil)
https://doi.org/10.1016/j.lana.2025.101281
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

