私たちが健康診断などでよく目にする「BMI(体格指数)」は、体重(kg)を身長(m)の2乗で割って求める、肥満状態を判定する指標です。
一般に、BMIが18.5〜24.9の範囲なら「正常体重」、25以上で「過体重」、30以上で「肥満」とされてきました。
多くの人が一度はこの数値を計算し、「自分はまだ25を超えていないから大丈夫」と安心した経験があるでしょう。
しかし、その「安心」が揺らぎ始めています。
米国マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)などの研究チームは、BMIだけでは見逃される健康リスクを正確に把握するため、腹囲や腰臀比、身長比ウエストなどの体型指標を組み合わせた新しい肥満の定義を提案しました。
この新基準を全米30万1,026人のデータに当てはめたところ、これまで「BMIは正常だから大丈夫」と考えられていた人の中にも、深刻な健康リスクを抱える“隠れ肥満”が多数見つかったのです。
あなたも新しい基準で計算してみると、思いがけず「肥満」に分類されるかもしれません。
この研究の詳細は、2025年10月付けで科学雑誌『JAMA Network Open』に掲載されています。
目次
- これまでの肥満の定義
- アジア人はBMIが正常でも内臓脂肪が多い新肥満が多い
これまでの肥満の定義
BMI(体格指数)は、体重を身長の2乗で割って算出されるシンプルな指標です。
一般的にBMIが25以上で「過体重」、30以上で「肥満」とされてきました。
しかし研究者たちは、「BMIだけでは体脂肪のつき方やお腹まわりの状態、体の機能の落ち込みを十分に評価できない」と指摘しています。
実際、BMIが正常範囲内であっても、お腹まわりの指標が高く健康リスクが高い人が一定数存在します。
このようなケースは、特にアジア人や高齢者に多く見られ、これまでは健康と判断されることが多かったのです。
そこで、研究チームは、複数分野の国際専門家会議(ランセット・コミッション)が提案した考え方を基に、新しい肥満判定基準を構築しました。
この新しい定義では、BMIに加えて腹囲や腰臀比(ウエストとヒップの比率)、身長比ウエストなどの身体計測を組み合わせ、脂肪の分布(特に内臓脂肪の多さ)を評価します。
つまり、BMIが「普通」でも、お腹まわりが身長のわりに太いなど、複数の体型指標で異常が見られれば「肥満」と判定されるのです。
誰もが今すぐできる「新しい肥満自己チェック」
この新しい肥満基準は、次の方法で一般の人でも簡単に判定を行うことが出来ます。
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BMIを計算する(体重kg ÷ 身長m²)
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ウエスト・ヒップ・身長を測る
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体脂肪率を測る(家庭用体組成計でも可)
ここで判断すべき数値は、人種や性別ごとに細かい基準が設定されていますが、日本の一般向け目安としては次の数値が参考になります。以下の項目のうち、いくつ当てはまるか確認してみましょう。
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BMIが25以上
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腹囲(ウエスト)が男性85cm/女性90cm以上
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腰臀比(ウエスト÷ヒップ)が男性0.90以上/女性0.85以上
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身長比ウエスト(ウエスト÷身長)が0.5以上
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体脂肪率が高い(男性25%以上、女性30%以上)
たとえば、身長160cmの人はウエスト80cm、身長170cmの人はウエスト85cmを超えると「注意ゾーン」です。
そして上の項目のうち2項目以上が基準を超える場合、新たな基準の「隠れ肥満」である可能性があります。その場合、BMIが正常(18.5〜24.9)でも生活習慣病のリスクが高まります。
この新基準では、BMIに加えてウエストとヒップの比率、身長比ウエストなどの身体計測を組み合わせ、脂肪の分布(特に内臓脂肪の多さ)を評価します。
この考え方の狙いは、「身長に対して体重が多い=肥満」という単純な分類ではなく、体脂肪の質と分布、そして健康への影響をもとに“病態としての肥満”を判断することです。
この複数評価では、実際大規模データに適用すると、これまでのBMI基準では見逃されていた多くの人々が、実は健康リスクの高い肥満状態になったといい、特にアジア人ではその可能性が高まったという。
アジア人はBMIが正常でも内臓脂肪が多い新肥満が多い
新しい基準を全米の健康調査「All of Us Research Program」に登録する約30万人の成人データに適用したところ、肥満と分類される人の割合は42.9%から68.6%へと大幅に増加しました。
この増加は特にアジア人や高齢者で顕著でした。
アジア人では、肥満と判定される人の割合が27.0%から51.4%へとほぼ倍増し、70歳以上では従来の58.4%から78.3%へと約1.3倍に増加しました。
これら人は、BMIでは正常範囲でも内臓脂肪が多かったためです。
つまり、体重やBMIだけでは健康リスクを正しく評価できない人々が多く含まれていたのです。
こうした新基準で肥満となった人たちは、追跡調査で糖尿病や心血管疾患になる確率が高くなっていました。
これは新基準のほうが“将来の病気を引き起こしやすいタイプの肥満”を見分けやすいといえるのです。
研究チームは、「BMIでは正常範囲でも内臓脂肪が多い」人への早期の生活改善やサポートが重要だと強調しています。
特にアジア人では、BMIが低くても内蔵脂肪がつきやすい傾向があり、従来のBMI基準ではリスクを過小評価していた可能性があります。
そのため、人種や性別で異なるしきい値を踏まえた評価が重要で、今後の基準運用の検討が進む見込みです。
また、新定義の導入によって医療機関での治療対象や保険の適用者が増える可能性があり、制度や予算面での影響も避けられません。
なお、現時点の肥満薬の適応は従来のBMI基準(BMIが30以上、または27以上+併存症)に基づいています。
筆頭著者のルーカス・フォアマン医師は、「BMIは有用な目安だが、それだけでは不十分で、お腹まわりなどの情報や体の不調を無視してはならない」と述べています。
今回の研究は、私たちが当たり前に使ってきた健康指標の限界を示し、それを見直すことで社会の健康観全体が変わりうることを示す例となりました。
あなたの健康指標もアップデートの時期かも
これまで「BMIが正常だから安心」と思っていた人でも、新しい基準で計算したら肥満に分類される可能性は高いでしょう。
体重だけでなく、「お腹まわりのサイズ」を含めて健康を考える時代が来ています。
今後は、特にお腹の脂肪を重視した健康づくりがスタンダードになるかもしれません。
参考文献
Study Indicates Dramatic Increase in Percentage of U.S. Adults Who Meet New Definition of Obesity
https://www.massgeneralbrigham.org/en/about/newsroom/press-releases/dramatic-increase-in-adults-who-meet-new-definition-of-obesity
元論文
Implications of a New Obesity Definition Among the All of Us Cohort
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2025.37619
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部

